2008/05/12
老人の木
おじいさんの木は、
その光景を見て
少し可哀想に想いました。
「今日の日の記念として
ひとつプレゼントを贈ろう」
おじいさんは、他の木々と
静かに息づく公園に
合図を送りました。
すると不思議なことが
起こりました
公園の土が盛り上がると
蝉の幼虫が
沢山地上に出てきます。
「うわ、何?
変な虫が
沢山出てきたわ」
「蝉の幼虫かな?」
幼虫達は
公園の木々に
ランプの柱に
素早くズンズン昇って行くと
その動きを
ピタッっと
急に止めました。
ランプが
おじいさんの指示通り
光を少なくして
公園を、
ほのかにくらい世界にします。
雨の後の静かに澄んだ空気の中で
音の無い世界が
暫く続いた後に…
子供たちの右の方から
うすい輝きが
木に灯り始めました
「木が光ってる」
その輝きは右から左へ
流れるように灯り、
公園は静かに光る
星の世界となって
何故か懐かしいような気持ちが
二人の心に湧き上がりました。
「すごい、星みたいだ」
「プラネタリウムより、綺麗…」
その光りは、蝉の生命の輝きでした。
暗い地面から這い出して
幻の様な光を灯しています。
かなしみと、
よろこびの混ざった
ともしびを…
子供たちは長い間、
見つめていました。
いつか、その光りも
夜空の星たちも消え
薄暗い朝が近くなると
女の子は言いました。
「このコトは、私たちの
一生の思い出になるわ。
もしかすると、この木。
世界樹かもしれないわ」
「せかいじゅ?」
男の子を、みつめると
女の子は言葉を続けました。
「こんなに素晴らしい
思い出をありがとう…
これからも永遠に
友達でいましょうね」
何故か別れの言葉のようで
不安に思いながらも
男の子は
こたえました。
「永遠に友達でいよう」
遠くから低く
うなる車の音が
近づくと
女の子の母親が
迎えに来ました。
「探したわよ、どうしたの。
心配させないで
今日は、もう出発の日よ
沢山の友達にお別れを
言わないと」
女の子は、
かなしそうな笑顔を
男の子に向けてから
母親に言いました。
「もう、大切な人に
お別れは言ったの」
全てを理解した
男の子の眼に、
少しだけ
涙が込み上げてきます。
どうにも、
こらえきれなくなって
眼を瞑りました。
「ひっこすの?」
「そう、わすれないでね
今日のコト…。
さようなら」
車が遠ざかると、
ひとりの子供は木の下で
太陽が出るまで
泣き続けました。
おじいさんの木は
その様子を、
ただ優しい眼差しで
見守っていました。
それから、太陽と月が
幾度となく
空を駆け抜け
私たちの時間は
滝のように流れ去りました。
幻想的な思い出の公園は
駐車場になり、
桜色の花びらが
風と舞い踊る中、
おじいさんの木が
昔あった場所に
ひとりの高校生が
立っていました。
女の子は
静かに座り
地面に手を触れ…
あの時の光景と
おじいさんの木を
心に描き出しました。
少し明るく微笑むと
立ちあがって
言いました。
「さようなら。そして、
これからもよろしく」
完
その光景を見て
少し可哀想に想いました。
「今日の日の記念として
ひとつプレゼントを贈ろう」
おじいさんは、他の木々と
静かに息づく公園に
合図を送りました。
すると不思議なことが
起こりました
公園の土が盛り上がると
蝉の幼虫が
沢山地上に出てきます。
「うわ、何?
変な虫が
沢山出てきたわ」
「蝉の幼虫かな?」
幼虫達は
公園の木々に
ランプの柱に
素早くズンズン昇って行くと
その動きを
ピタッっと
急に止めました。
ランプが
おじいさんの指示通り
光を少なくして
公園を、
ほのかにくらい世界にします。
雨の後の静かに澄んだ空気の中で
音の無い世界が
暫く続いた後に…
子供たちの右の方から
うすい輝きが
木に灯り始めました
「木が光ってる」
その輝きは右から左へ
流れるように灯り、
公園は静かに光る
星の世界となって
何故か懐かしいような気持ちが
二人の心に湧き上がりました。
「すごい、星みたいだ」
「プラネタリウムより、綺麗…」
その光りは、蝉の生命の輝きでした。
暗い地面から這い出して
幻の様な光を灯しています。
かなしみと、
よろこびの混ざった
ともしびを…
子供たちは長い間、
見つめていました。
いつか、その光りも
夜空の星たちも消え
薄暗い朝が近くなると
女の子は言いました。
「このコトは、私たちの
一生の思い出になるわ。
もしかすると、この木。
世界樹かもしれないわ」
「せかいじゅ?」
男の子を、みつめると
女の子は言葉を続けました。
「こんなに素晴らしい
思い出をありがとう…
これからも永遠に
友達でいましょうね」
何故か別れの言葉のようで
不安に思いながらも
男の子は
こたえました。
「永遠に友達でいよう」
遠くから低く
うなる車の音が
近づくと
女の子の母親が
迎えに来ました。
「探したわよ、どうしたの。
心配させないで
今日は、もう出発の日よ
沢山の友達にお別れを
言わないと」
女の子は、
かなしそうな笑顔を
男の子に向けてから
母親に言いました。
「もう、大切な人に
お別れは言ったの」
全てを理解した
男の子の眼に、
少しだけ
涙が込み上げてきます。
どうにも、
こらえきれなくなって
眼を瞑りました。
「ひっこすの?」
「そう、わすれないでね
今日のコト…。
さようなら」
車が遠ざかると、
ひとりの子供は木の下で
太陽が出るまで
泣き続けました。
おじいさんの木は
その様子を、
ただ優しい眼差しで
見守っていました。
それから、太陽と月が
幾度となく
空を駆け抜け
私たちの時間は
滝のように流れ去りました。
幻想的な思い出の公園は
駐車場になり、
桜色の花びらが
風と舞い踊る中、
おじいさんの木が
昔あった場所に
ひとりの高校生が
立っていました。
女の子は
静かに座り
地面に手を触れ…
あの時の光景と
おじいさんの木を
心に描き出しました。
少し明るく微笑むと
立ちあがって
言いました。
「さようなら。そして、
これからもよろしく」
完




